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技術ニュース86 Chibanian

(孫) お爺ちゃん、“ちばにあん”ってなあに?授業で出てきたんだけど、全然わかんなかったよ。
(爺) むぅ、今時の学校は難しいことを教えるのじゃなぁ。ちょっと調べるから待ってなさい。
(孫) でも後で友達と遊びに行くから早くしてね。
(爺) ・・・。まず、千葉県に第四紀更新世の地層が広く分布することは知っておるかな?
(孫) そういえば、科学部の友達が縞々の地層の崖に貝の化石を採りに行ってたよ。あれがダイヨンキコーシンセイ?の地層ってこと?
(爺) そう。それで、市原市の田淵という所に“千葉セクション”と言われている崖(露頭)があって、上総層群国本層が分布しており、その中に更新世前期-中期の境界があるのじゃ。
(孫) ふーん。(だんだん口数が少なくなる)
(爺) この境界は、40Ar/39Ar法という年代測定法によって78万年前とされているが、推定方法によって年代が微妙に異なることが分かってきた。それで、日本の研究者達が“千葉セクション”を詳しく分析し直したのじゃ1),2)
(孫) それってだいたい原人が生きていた時代だよね。でも、詳しく分析って何をしたの?
(爺) 1つは、古地磁気の変化を精密に調べたのじゃ。更新世前期と中期の境界では、磁場が逆転しているが(MBB:松山逆磁極期とBrunhes正磁極期の境界)、その位置は、白尾(びゃくび)火山灰層(Byk-E)の約2m下位と言われていた。しかし、詳細な研究で、MBBが実はByk-Eの0.8m上位にあると分かったのじゃ。
 もう1つは、微化石(底生有孔虫の殻)を使って、酸素同位体比記録(δ18O)を精密に調べた。これで古水温の変化を明らかにして、他の地域、例えば南極の氷床コアと対比して、堆積速度と年代を詳しく検討できたのじゃ。
 さらに、白尾火山灰層中の鉱物(ジルコン)の年代をU-Pb法で調べて、火山灰が77.3万年前に堆積したことを突き止めた。これらの結果から、磁場逆転の時期(=更新世前期と中期の境界)が、1万年遅い77.0万年前であることが明らかになった。精密な分析を地道に積み重ねて新発見につなげたのは、日本らしいと言えるのではないかな。あと、この研究は、40Ar/39Ar法による年代決定に検討の余地があることを示唆していて、他の地質年代も今後書き換えられる可能性がある。結構すごい発見なのじゃよ。
(孫) ふぅ、話聞いてるだけで疲れちゃったよ。で、“ちばにあん”はどこで出てくるわけ?
(爺) ここからがわくわくするところ。実は、更新世の各時代には、まだ正式な名称が付いていない。万国地質学会で“千葉セクション”が国際標準模式地(GSSP)として認められれば、更新世中期(77万年~12.5万年前)が「千葉時代」(Chibanian)と公式に命名されるのじゃ3)。高精度の研究成果により、地質年代学の発展に寄与したので、他の候補地(イタリア)より有力だと期待されている。“千葉セクション”が国際標準模式地に選定されると、日本で初めて、“Chibanian”と銘打った金色の鋲(ゴールデン・スパイク)が露頭に打ちこまれるのじゃ!
(孫) 結局よく分かんなかったけど、“ちばにあん”になるといいねぇ。じゃあ遊びに行ってくるよ。
(爺) ・・・・・。

図 “千葉セクション”の岩相、磁極期及び
酸素同位体比年代の対比
(Suganuma et.al., 2015を基に編集)


参考文献
1) Suganuma et. al.(2015):Geology, 43,pp.491-494.
2) Kazaoka et.al.(2015):Quaternary International, 383, pp.116-135.
3) 国立極地研究所,茨城大学,海洋研究開発機構(2015): プレスリリース,7p.


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